先生と幼馴染み。

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「聞くから。はいどーぞ」 「・・・落ち着いて聞けよ・・・?」 「・・・わーかったって。早く。何?」 「・・・お前の親父さん・・・お前を連れ戻そうとしてるって・・・」 「・・・」  ハッとした訳でもない。驚いた訳でもない。怒ってるってのも全然違うし、まして喜ぶ訳でもない。  だけど、かと言って、どーでも良いもまた違う。  この気持ちに、名前は有るのだろうか。 「・・・その話、誰から聞いた?その話は、確かなの?」  この気持ちを一番言葉に現してくれるのはきっと、動揺。だけどその言葉さえ、しっくり当てはまることはなく、何だろう。例えるならパズルのピースで三つの面はきちんと隣り合ってくれているのに残る一面だけが、隣と噛み合ってくれない。そんな感じ。 「・・・話は、母さんと親父が話してるのを偶然聞いた。・・・だから、ごめん。今更だけどこの話がどこまで本当なのかも、そもそも本当にこんな話なのかも、正直な所まだはっきりしてない。・・・あくまで、二人の会話の流れからして俺が聞いたことから導き出した俺個人の推察でしかないん・・・だけど・・・」 「・・・推察、ね・・・」  だけど、それを言われたから私の中で何かが変わるものでもなく。かえって混乱したってことも特にはないらしい。 「・・・それがもし、本当の話だとして・・・どうして康介の御両親がそんな話をしていたのか・・・。・・・その話が本当かどうか以前に、それ本当に私の話なの?」 「それは確かだよ。『律』って名前も『笹川さん』って名前もこの耳で確かに聞いたんだ。それから・・・何つったっけな・・・はる・・・何とかさん・・・?・・・何かそんな名前も聞いた」  『ハル、何とか』・・・。思い当たらない訳がなかった。  『ハル』その二文字を聞いただけで、鼓動が早くなるのを、確かに感じた。  それは・・・。  ・・・これこそ、まさに"動揺"。 「・・・はる、か・・・さん・・・?」  恐る恐る、言ってみた。名前を呼ぶことにさえ、恐怖を感じるこの体は、今もまだ彼女の存在が自分にとっていかに偉大であるのかを、彼女のそんな存在を彼女自身が『忘れるな』と言わんばかりに知らしめてくる。 「そうっ!!そうだよっ!!ハルカさんっ!!知ってる人?ならやっぱそうだったんだな。この話はお前の話だったんだ」
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