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改めて康介の口から繰り返されるその名前に、ピクリ、体が跳ね上がる。
「・・・分かった。もう、分かった。わざわざありがと。後はこっちの話だから。康介は、聞かなかったことにして」
「なっ・・・」
「・・・ね?分かって。お願い」
それはすがるような想いだった。
私個人の問題に他人が関わるとろくなことがないってことを、私はちゃんと、知っていたから。
だから、お願い。これ以上、深入りしないで。
「じゃあね」
「・・・また、明日・・・な」
「ちょっと、止めてよ。明日もあんたと会うかのような言い回しは。前から言ってるでしょ。『また明日』何て言葉、私に使わないで」
そんな憎まれ口で良い。
「そりゃねぇよー。俺、明日は迎えにくっからな。もう高二だぜ?いい加減ちゃんと行かなきゃやべーって。卒業できねーぞ。そもそも二年に上がれたことさえ奇跡に等しいんだから」
「私はあんたと違ってテストさえ受けとけば何とかなるのよ。迎えに来るなんて冗談はやめてよね。死にたいの?」
こんな、憎まれ口で良い。
こうして二人いつものように冗談言い合って、詰(なじ)り合って。それで良い。
それが、良いんだ。
「だーめだ。迎えに来る。明日も、明後日も、ずっと」
「・・・来ても良いけど、無駄足になるのが落ちだよね」
「ならねぇよ。絶対・・・ならねぇ」
真っ直ぐな目をして言い切るの。
昔から思ってたけどさ。それ、ずるいと思う。
卑怯だと思う。
「・・・ならなきゃ良いねー」
「おうっ!大丈夫。絶対、ならねぇからさ」
その笑顔も。
私に向けられるその、屈託のない笑顔。
ずるい。卑怯よ。
「・・・卑怯者め・・・」
「何とでも言って下さいなー」
分かっているのかいないのか。
自覚はあるのか無自覚か。
彼の浮わついたそんな言葉は、春の暖かい風とともに私の頬をくすぐった。
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