第1章

39/43
前へ
/43ページ
次へ
手紙には、≪子供たちに会いたい。≫と書いてあった。 ふざけるな。 母が家を出て行った日から、父と兄弟三人これまでの生活が走馬灯のように駆け巡る。 真冬の寒い日、家に帰ったら唇を紫にして弟が玄関前で不安そうに立っていた。 電気、ガス、水道が公共料金滞納の為、ライフラインが遮断されていた。 暖房のつかない寒くて暗い家の中で、弟と何が起きたか分からず、悴む手で父にS.O.Sの電話を掛けた。 弟は私の制服のスカートをずっと掴んで、小さくなって小刻みに震えながら横に立っていた。 学校が終わったら真っ直ぐ家に帰り、洗濯や洗い物の家事に追われ、友達と遊ぶ時間なんてなかった。 弟が夜中、布団の中で毛布を頭から被り、家族に気付かれないように、声を押し殺して泣いている姿を見たとき、弟を抱きしめて二人で泣いた。 それを最後に、いつの日か泣きたくても涙が出なくなった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加