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なんとか社長を説得したが、俺にはまだスッキリしない物が残っていた。
『縁』云々では無いが、何となくこの車輌は手に入らない、という予感が芽生えていたんだ。
その上、更に社長から嫌な話を聞かされた。
「大阪のショップっていうのも心配なんですよねぇ…」
大阪の人達には本当に申し訳ないが、俺はやっぱりか… という気持ちになった。
社長の説明によれば、社長が買い付けに行く場合は業販という形になる。
その際、大阪のショップの多くが目当ての車輌を手付けだけで押さえておく事をしてくれない。
あくまでも全額を現金で用意して行かなければ売ってくれないという。
実際に何年か前、買いに行くと伝えた上で現金を持って大阪まで行った挙げ句に売ってもらえない事が2度もあったと言う。
話が理解出来ない俺は詳しく聞いてみた。
社長の説明はこうだ。
大阪で400万の車輌が売りに出ている。
社長が業販で買い付けに行く。
その際、400万で買い付け、そこに社長の儲けを乗せて俺に売る、というのではなく、あくまでも俺は400万を払えばいいのだと言う。
つまり、相手業者は社長の儲けと運送費を引いて売らなければならない。
一般の客に売った方が利益率が良い為、いくら口約束をしていても一般の客が来たら知らん顔で売ってしまうのだと言う。
「関東では考えられないですけど、大阪、愛知の業者には多いですねぇ。」
と言っていた。
愛知の人達にも大変申し訳ないが、それが実情だと言う。
だから、金を持って買いに行っても必ず買えるという保証は無い、という理屈だ。
そして社長はまた『縁』を口にした。
「縁があれば矢沢さんの物になるし、無ければ諦めましょう。」
(また『縁』か……)
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