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広い駐車場の中、シルバーのボディカバーできつく覆われたシルエットは、まさしく初代カマロの物だ。
社長がゆっくり丁寧にカバーを剥いでいく。
(どんなんだろう?)
という期待と、
(でもRSだもんなぁ…)
という諦め。
それでも早くなる鼓動。
次の瞬間に現れるボディ。
松下さんとシゲの口から、歓声ともため息ともつかない声が漏れた。
「うわっ!! 出た~!!」
「これって何なんすかぁ!?」
俺はそんな声すら遠くに聞いていたんだ。
SS? RS? そんな事はどうでもよくなっていた。
(なんだ…? これはなんだ……?)
俺は長い間、声を出す事も身動きする事も忘れて、そのブルーメタリックの車輌を見つめていた。
次の瞬間、思いがけず涙が零れた……
人は、出逢うべき相手と正しく出逢った時、自分の意思とは関係なく勝手に涙が流れるものらしい。
「ヒロさん、スゴいっすよ!!」
俺はシゲの大声で初めて我に帰ったが、気の利いたセリフは出て来なかった。
「うん……」
と答えたきり、その運命の車輌を見つめ続けていたんだ。
今まで黙っていた社長が静かに口を開いた。
「矢沢さん、どうですか?
『縁』を感じますか?」
それを聞いた瞬間に全てを理解した。
俺は今はっきりと、この圧倒的なオーラを放つ静かな車輌に『縁』を感じている。
「社長が言ってた『縁』て言うのはこれなんですね……
これは…… ボクの車です……」
社長はニッコリ笑うと、いつもの穏やかな笑顔ではなく、悪戯っ子の顔で言った。
「矢沢さんがいらないなら、ボクが買って一生手放しませんけど?」
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