Feeling Love Again

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社長がドアを開けてくれた。 10分程両側から覗き込んでいたが、我慢出来ずに社長に聞いたんだ。 「座ってみてもいいですか?」 社長は微笑みながら答えてくれた。 「どうぞ…」 俺はウォレットチェーンを外し、財布をシゲに預けた。 チェーンでシートを傷付けない為だ。 そしてコンバースを脱ぎ運転席に座ったんだ。 「靴まで脱ぐんすか!?」 シゲが言った。 「絨毯が汚れるからよ…」 「ヒロさん… そこまでなんすね……」 カビ臭い匂い。 ブルーの内装。 真っ赤なフロアカーペット。 SSのマークが入った、手垢の残る細くて大きなステアリング。 ウッドパネル、そしてパイロットシフト。 鉄板で出来たコンソールボックスには、当時の金持ちの象徴である自動車電話の取り付け穴が残っていた。 左手でステアリングを握り、右手をシフターに添えた。 静かだが、熱い時間が流れて行く…… そして いつしか俺の中に『愛しい』という感情が沸き上がって来た。 それは、ひとみや子供達に対して感じるのと同種のものであったと思う。 「社長、ボクが欲しいと言ったら、これは本当にボクの物になるんですか……?」 「はい、なります。 ただ、矢沢さんがいらないならボクの物になりますけど?」 社長はまた悪戯っ子の顔で言った。 「欲しいです…… ボクに譲ってくれますか?」 「はい。これは最初から矢沢さんの車なんですよ……」 .image=493881366.jpg
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