第1章

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 俺はどんな扉でも開くことができる。  別にピッキングや合鍵を盗み出して云々とかいう訳ではないぜ。  高校生になった今でも仕組みについてはまったくわからないんだが、どうも俺はそういう体質をもって産まれてきたらしい。  それがどういうものかというと、鍵がかかった程度のドアや窓なら普通になにもしないで開くことができるし、網膜照合やチェーンのかかった機械的・物理的に開きっこないはずのものでもほんの少し気合をいれるだけで一発でOK。  みんながよくやる、鍵のかかったノブをガチャガチャやる仕草なんて物心ついてからやったためしがない。  つまり、俺は誰にも閉じ込められない男ってわけだ。  で、俺は自分の体質のことを『常時開錠(アンロッカー)』などと名づけて、楽しくすごしている。  とはいっても、『常時開錠(アンロッカー)』を使って好き勝手し放題というわけでもないのだ。  俺がその気になれば、どんなに警戒が厳重な場所にも入り込めるのだが、残念ながらそういうことはしたことがない。  なぜなら、俺の体質は戸を開けるってだけで、そのほかにはなんの効果もないからだ。  現代の日本の重要施設にはたいてい監視カメラがついているし、警備員や住人、近所の人の目というものもある。  俺が透明人間みたいに姿をくらませられるというのならばともかく、侵入した上で見咎められないでできる悪事というものは限られている。  ま、真剣に空き巣をする気になればいくらでも儲けられるだろうし、強姦魔になればどんな女とでもヤレるだろうけど。  でも、それって悪事だろ?  普通なら絶対ありえない体質を持っていて、やることが犯罪ってかなりみっともなくない?  というわけで、俺は『常時開錠(アンロッカー)』を使って率先して悪事を働くという気持ちは一切なかった。  ただ、鍵のかかっている資料室で勝手にお昼寝をしたりする際に、この体質を利用する程度ならばお天道様も許してくれるだろう。  あと、施錠された屋上に飯を食いにあがったりするときとか。  で、今日も昼休みに少し眠くなった俺は、普段は誰も使っていない社会科資料室で一眠りしようとドアノブに手をかけた。    ☆           ☆    あれ?    俺の耳に聞き覚えのありそうななさそうな声が聞こえてきた、   「んっ……」    どこから漏れてきたのか、鼻にかかったような甘い声。
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