第5章

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 こちらの手元に残ったキーを、教室内のロッカーにしらみつぶしに使用してみればすぐに犯人に到達するからだ。  なぜなら、犯人は自分のキーと御厨のキーを入れ替えているのだから、犯人のキーにぴたりと合致するロッカーの持ち主こそが犯人だというわけである。  そこで、判明したのが、毛利だったという次第だ。 「……そう、さすが笛吹だね。あんたにかかったら形無しだよ」 「なんか過大に評価されているみたいだが、こんなこと、誰だって思いつくぜ。テンパっていた書記長ならともかく。で、おまえが犯人だってことは書記長には伝えていないし、これからもその予定はない。おまえが素直にキーを返してくれるのならな」 「もったいないけど、ばれちゃった以上、素直に返すよ。あんたが内緒にしてくれるというなら、町子には絶対言わないでくれるだろうし」 「よし、それならいい」 「でも、なんであんたがこんな探偵みたいな真似をしているの? 町子と親しいわけではないでしょ」  うーん、自慰をしているところを覗いてしまった仲だとはいえないよな。 「……うちの高校の生徒会って、会長が書記長と呼ばれているとか、ちょっと変な伝統があるだろ?」 「うん。確かに」 「で、一般には秘密にしてる伝統がまだあってな。その中に、『調査部』ってのがある」 「『調査部』?」 「ああ。まあ、KGBのパクリだと思うが、要するに生徒会が表立ってできない仕事をやる役職みたいなものだ。これは書記長と副会長ぐらいしか知らない秘密で、実は予算も与えられているんだ」 「マジなの……」  すまん、真っ赤な嘘だ。 「俺は前書記長の知り合いでな。陰で『調査部長』に任命されていたんだが、今回、御厨書記長に頼まれてこの事件を調べることになったというわけさ。あいつは、生徒会に対するスパイ行為かなんかだと思っていたらしく、同級生のストーカーっぽい色恋沙汰とは考えていなかったようだぜ」 「どういうこと?」 「だから、俺が報告をちょっと弄れば、別におまえの名前を出さなくても事件は終わりにすることができるんだよ。おまえだって、大好きな友達から嫌われたくないだろ」 「うん。そうだね。こんなことをしておいて許してもらえるとは思わないし」  そういって、机の引き出しを開けると、御厨の写真の束のほか、警察の鑑識の証拠物件のような小さなビニール袋に入った消しゴムとかが詰まっていた。
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