1.一通の手紙 

8/8
前へ
/183ページ
次へ
「柊、お前はボクが雷龍を使役せしものと言い切るのか。  ボクは今だ、その姿を認めたことがない」 「私の柳蓮【りゅうれん】が申しております。  ですから、貴方は紛れもなく、雷龍の玉を抱きしもの。  それは貴方の御手に刻まれし刻印が証。  宝さまと火綾の君には、これより時間が許す限り  私と行動を共にして頂きたく、お役目を伝えに参りました。  龍を抱きしものの務めは、 各地に渡る全ての結界をその身に移し、  弱りし土地に赴いて、その地の結界を強固にすること。  私はこれまで、娘を華月殿に託して  この地を守るために奔走してまいりました。  この後は、お二人の後継者にその役目をしかと伝承したく存じます」 柊はそう言うと、静かにお辞儀をした。 ふいに脳裏に浮かぶのは、 見知らぬ土地で、真っ白な衣を身につけた青年。 その青年は、鞘から剣を解き放って 何かを流れるように切りつける。 斬りつけた傍から、バブルがはじけるように 連なって金色の雨が降り注いだ。 突然傾いだ体を支えるのは飛翔。 「どうした?」 「何でもない。  不可思議なビジョンが映っただけだ。  それより柊、ボクたちは継承者として  何を学べばいい」 雷龍を使役するのが当主の証。 そして雷龍の神子に成すべきことがあるのなら、 ボクはそれに全身で向き合うだけ。 それがボクに与えられた宿命ならば……。 「明日の明朝、お三方には私のお供を」 柊は意味深に告げて、 一礼すると、華月の病室を後にした。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加