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そこは、焦土の世界だった。数分前まで立派に構えていた豪奢な豪邸は黒く煤けた瓦礫に変わり、美しかった緑の山々は燃え盛る炎で包まれていた。
少年はまだ幼かった。残酷な現実を受け入れるには幼すぎた。少年は小さなネコをカバンに入れて背負い、必死に瓦礫をどかしていく。
顔が黒く汚れても、汗が両目に滲んでも、両手が血まみれになろうとも、少年はただただ一心不乱に瓦礫をどかす。先ほどまで隣で紅茶を飲んでいた父親が、そこにいるのを信じて。
埋まっているのは父親でなくてもいい、お付きのメイドでも、専属のコックでも、日雇いの庭師でも、誰でもよかった。誰かがそこにいてさえくれれば、一緒に父親を探してくれる…そう信じて。
小さな少年の手が止まる。己の無力に絶望したからではない。ドスンと、背後から響く地鳴りが、少年の恐怖心を掻き立てる。背中を奔る悪寒。心臓に突き立てられた刃のような殺気。少年は恐る恐る振り返る。
影。巨大な赤影。見上げるほどに巨大な赤いワイバーン。それが何なのか、帝都暮らしだった少年にはわからなかったが、少なくともそれは、己の命など簡単に奪えるような圧倒的な力を持つ存在だと、直感的に感じた。
ワイバーンの裂けた口から、メラメラと赤い炎がちらつく。殺される…そう思った少年の中に何故か逃げるという選択肢など無く、偶然そばに落ちていた純白の宝剣を握り、苦し紛れに対峙する。
「うっ…うおおおおおおおっ!!!!」
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