夢倉 雪也

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 俺が座敷牢を訪ねたとき、まだ冬野は寝巻きのままでいたため、俺は冬野の着替えを手伝ってやらなくてはならなかった。  冬野は何をするにもゆったりとしていて行動が遅い。冬野のそれに苛々させられる人間は多いが、正直この程度で腹を立たせる人間は懐が狭いと思う。こう言うと周りに「お前は冬野を贔屓しすぎる」と眉を顰められるのだが、全く、心外だ。  大方着替えを終えたところで冬野は詰襟の、一番目のボタンをだらしなく開けたまま牢を出た。俺は冬野が出た後、牢を施錠する。これで冬野のいない間に誰かが牢に入り込むことはないだろう。  冬野の座敷牢は母屋から少し離れた蔵の中に造られてあった。  双子の片割れを隔離するために、つまり冬野のために造られた特注の座敷牢であった。  我が夢倉家の最高権力者である祖父が亡くなってから、一家の支配権を受け継いだ父の温情で冬野が蔵から出されることになったが、冬野は頑なに自分から牢を出ようとしない。父も俺も不可解に思っていたが、母や織女は冬野が視界に入らないことを喜んでいるようだった。  そんな複雑な相関図が繰り広げられている夢倉家の朝は少しも清々しくなく、母と織女の鋭い視線が冬野に突き刺さる。  家族団欒の場であるはずの居間は冬野の登場により崩壊し、冬野もそれを理解しているようだった。冬野はいつも下を向いてにやにやしているが、その横顔はぎこちない。  母も織女も極力冬野を視界に入れまいと努めている中、父だけは冬野にやさしく声をかけた。 「昨日はよく眠れたか」  常時強面の父の表情を見事に和ませて見せる冬野の愛らしさは、性別をも凌駕する彼特有の能力ではないかと思う。  双子の片割れに対して「愛らしい」との表現はいささか気味の悪いものではあることは俺とて、充分に理解している。だがこれ以外に腑に落ちる言葉が見当たらないのだ。  冬野は咀嚼していた飯を「こくり」と飲み込み、父の方へ顔を向けた。笑顔はより一層増し。
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