890人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
それからしばらくは、他愛も無い話をして時間を潰した。
結果的に加治と一緒にサボった化学は五時間目の授業だった。
その時間もそろそろ終わりに差し掛かった頃、思い出したように加治が口火を切った。
「あ、そういやアレだ。やっぱあの名前……名木ちゃんからとったらしいぜ」
「ミヅキ?」
「そう、何か女子が直接聞いたとか言ってた」
名木先生の名前に一瞬鼓動が跳ねたが、素知らぬ顔して相づちを打つ。
「直接」
「あぁ、名木ちゃんに直接」
「へぇ……」
俺は手持ち無沙汰に手の中の空き缶を転がしながら、加治へと横向けていた視線を手元に戻した。
(やっぱそうか……)
思いの外動揺せずに済んだのは、その答えが予想できていたからだろうか。
俺は改めて花束の代金のことなど気にしていた自分がばかみたいだと思いつつ、密やかに溜め息を吐いた。
「つーかホント仲いいよなぁ、あの二人。いくら昔からの知り合いだからって……」
欠伸混じりに言いながら、加治がごろりと横になる。仰向けになり、頭の後ろで気だるげに腕を組むと、再度盛大に欠伸を漏らした。
どうやらこのまま次の授業もふけるつもりらしい。
俺もこのままサボるかな……。
つられて安易に思ったが、次の授業のことを考えるとそれも迷うところだった。
最初のコメントを投稿しよう!