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八月五日、雄仁の家、和室。
「もう時間ですか」
ゆっくりと立ち上がり辺りを見回しながら体を捻る。
二時間以内って言ってましたけどもう場所がわかってますから難しく無いですね。あんまり待たせるわけにはいかないので早速向かいますか。
和室を出て階段をのぼり二階の廊下を歩く。
「お、ここですね」
目的地の部屋の前で足を止め一度深呼吸をした。
こ、こんなにも緊張するなんて思いもしなかったです。でも、考えてみればここで振られたりしたら僕はどうすれば……ちょ、ちょっと待ってください。一度落ち着きましょう。
雄仁は扉から離れ壁にもたれ掛かった。その表情には不安の色が濃く出ていた。
いつもこういう所で選択することを恐れて逃げてたからここまでみんなを待たせたんだ。だからここは勇気を出して告白するんだ。大事なこの想いを大好きな人に伝えるために!
右手を強く握り再び扉の前に立ち、コンコンと二度ノックをした。少し間が空き中から緊張した声が聞こえてきた。
「ど、どうぞ」
「し、失礼します」
震える手で扉を開き中へと入る。室内は机の上のスタンドライトしか灯りが点いていないため暗かった。
「こんな暗い所で勉強してたら目を悪くしますよ」
「よ、余計なお世話よ。あんたこそなにか用?」
「なにか用?ってそんなの「お姉ちゃんならいないわよ」
「へ?」
姉さんの話?
「それに居場所も知らないから問い詰めてもムダよ」
「いや、僕は姉さんに会いに来たわけではないんです」
「それじゃあ桃?残念だけど桃の居場所も知らないわ」
「桃ちゃんでもありません」
「あ、わかった。そう言えばあんたってば純粋なロリコンだもんね。鈴でしょ?そうでしょ!でも残念。居場所なんて知らないから」
言いたいことを言いきった英理子はペンを再び持ちノートの問題を解き始めた。
「……ひねくれ者」
「はぁ?あんたそれどういう意味よ」
ボソッと呟いた言葉を聞き逃さなかった英理子は怒りながら振り向いた。
「だってそうじゃないですか!なにも言ってないのに先に変なことばっかり言って肝心の英理子がいないじゃないですか!」
別に大きな声を出すつもりはこれぽっちも無かった。だけど、あんなことを言われたら誰だって文句のひとつも言いたくなります。
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