「笑った男」

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「臓器転移」の仮説を聞いて、やっと私の特異体質が理解できた気がした。 だからといって、私は臓器移植を受けたことがないことは断っておく。 臓器に記憶が溜まるのなら、感情や性格も同様ではないか、という私なりの仮説である。 私の身体の内臓には、それぞれに感情があるのだ。比喩ではなく、文字通りの意味である。 まず私の胃は、悲観的で涙もろい性格である。シクシクとよく泣くので辟易している。 次に心臓だが、ストイックな頑張り屋だ。いつも過剰に勤勉で動悸が治まらない。 腎臓は躁鬱的で制御が効かず、脾臓はプライドが高く見栄っ張りである。 問題は大腸である。コイツが曲者で、楽観主義で笑い上戸なのだ。箸が転んでも笑う年頃の大腸だ。 だからといって、私の臓器に眼や耳はない。私の感情を読み取って、それぞれの臓器が喜怒哀楽の感情を表すのである。 だから私は感情の起伏を抑えて、内臓が七転八倒しないように勉めている。 いちいち感情を表していたら、私の寿命はすぐ尽きてしまうだろう。 内臓が喜怒哀楽で私を苦しめないように、感情を抑えて日々を送ってきた。 そんなある日のことである。
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