「笑った男」

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海外出張から戻る国際線の旅客機に乗っていた私に悲劇が訪れた。 どうやら旅客機のエンジンがトラブルに見舞われたらしいのだ。 CAが「大丈夫ですから、落ち着いてください」と血の気が引いた顔で言うものだから、機内の乗客はパニックである。 さすがの私も動揺を隠せなかったが表情には出さず、それを見たCAは畏敬の眼差しで私を見ていた。 とんでもない。私の悲観的な胃は悲鳴を上げて泣きじゃくり、頑張り屋の心臓が無駄に気張って心拍数を250まで上げて、腎臓はこの世の終わりとばかりに暴れ回り、脾臓は虚勢を張るがブルブルと震えていた。もう地獄である。 生か死かの緊迫した時間が過ぎた。 しかし、どうやら危機は乗り越えて、旅客機は空港に着陸した。 極限の緊張が解けて、安堵する乗客たち。 私も胸をなで下ろした。同様に内臓たちも安堵したようである。 唯一、大腸を除いて── 極限の緊張から解放されたときに、はからずも人は笑ってしまうものらしい。 それと同様に、私の大腸が堰を切ったように感情を表したのだ。 そして──
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