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“こーんな”と言いながら、武藤が指先で両目尻をつり上げる。
その表情に涼正は思わず吹き出しそうになったのだが、それよりも意外な名前が武藤の口から出てきたことに気を取られていた。
「え、兼良くん?」
「? 涼正さん、もしかして知っていらっしゃるんですか?」
涼正は曖昧な笑みを浮かべ否定した。
「……ううん。多分、違う人かもしれないから」
兼良と聞いて思い出すのは四條のマネージャーなのだが。
まさか、その人が武藤の弟であるはずがないだろう。そんなの、いくらなんでも出来すぎている。
そんな思いが涼正の中にあって否定したのだが、四條のマネージャーが武藤の弟と同一人物である可能性を否定するには些か弱すぎるのではないかとの考えもあった。
どちらにせよ、この場で確認することは出来ないのだから考えても仕方がないのだが。
涼正はそこで思考を切り上げると「今日はありがとう。急に呼び出して悪かったね、もう上がってくれて構わないから」と武藤の肩をポンと叩いた。
「あ、はい。弟のこと、いつか機会があったら紹介しますね」
きっと、真面目な武藤のことだから近いうちにその機会を作ってくれるつもりなのだろう。
涼正はそんな武藤の事を好ましく思いながら、「うん、会えるのを楽しみにしてるよ」と口にして武藤を見送った。
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