終章 墜ちたその先

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「弟さんは、もう大丈夫なのかい?」  涼正がそう尋ねると武藤の表情がパッと明るくなる。 「あ、はい! いつの間にか解決したみたいで今は仕事頑張ってるみたいです」  見ている方まで元気になるような、そんな笑顔で答える武藤に涼正は目を細めた。  弟想いの優しい兄の顔をしている武藤が何だか新鮮だった。  想像でしかないが、きっと武藤の弟も武藤に似てくるくると万華鏡のように表情が変わるのだろうか。  そんなことを考えながら、涼正が「そうか、武藤くんに似て真面目ながんばり屋さんなんだろうね」と言うと、武藤がふるふると頭を横に振った。 「ありがとうございます。確かに真面目なんですけど、容姿はあんまり似てないんですよ? きっと涼正さんが見たら驚くと思います」  武藤本人に似ていないと口にされ、涼正がイメージしていた武藤の弟像に靄がかかってしまう。  似ていないと言われると、途端に涼正は武藤の弟像が気になってしまった。 「そんなに似てないのかい?」  気が付くと、思わずそう問い掛けていた。  プライバシーに関わることだろうに、武藤は特に気にした様子もなく笑みを浮かべたまま弟について語り始めた。 「似てませんね。弟……あ、兼良って言うんですけど俺とはまるっきり正反対でこーんな目をしてぴっしりと髪を撫で付けてるんです」
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