夏のはじまり

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「どうだ、東京は。ちゃんと優しくしてもらってるか?」 「父さん、またその質問。酔うと、いっつもそれだよね。大丈夫だよ、友達だっているし、優しい人ばっかりだよ。東京の人が冷たいって考え方は、偏見だから」 「あー、そうかそうか、楽しくやってるなら安心した。はっはっは」 父が笑うのを見て、つられて母も笑う。 なにが、「久しぶり」だ。 私だって、父の笑い声も、母の笑顔も、……一年ぶり。 両親は、純がいる時にしか、笑わない。 私の前では、常に困った顔をしている。 私にも、原因があるのは、重々承知しているつもりだけれど。 「ごちそうさま」 一言も喋らずに、食器を持って立ち上がる。 「あら、愛……、おかわりは?」 「いらない。暑いから。ごめんね、おばさん」 母は、悲しい瞳をそっと伏せた。
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