夏のはじまり

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私は、父の責めるような瞳を背中に受け、さっさと二階の自分の部屋へ向かう。 ――私には、16歳から前の記憶がない。 私の一番最初の記憶は、病院のベッドで、知らない夫婦が顔を覗いていた日から始まっている。 頭には、ぐるぐる包帯。 青白い腕からは、半透明の管が繋がれていて、体中痛くて、身動きがとれなかった。 記憶はないけれど、自分が事故にあってそうなったのだと、理解するには充分だった。 「お前があの時、あんなことを言わなければ――」 「私のせいにするんですか!?あなたにだって責任は――」 「母親だろう!どうして気付かなかったんだ!」 記憶のない私の目には、啀(いが)み合っている夫婦が、自分の両親だなんて分かるはずもなくて。 動かない体で、精一杯震えることしか出来なかった。
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