夏のはじまり

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「なんでいつも連絡なしで帰ってくるかなぁ。今、私しかいないから、ごちそう作れないよ」 「いいんだよ。連絡なんかしたら、母さん仕事休んで朝から家で待ってるだろ。うざい」 「親不孝だね」 そんなことを言いながら、私はクスクス笑ってしまう。 リビングのテレビの、音量を高くする。 お昼の情報番組の笑い声は、あまり耳に入らない。 首振り機能を利用した扇風機の音が、心地いい。 夏の音だ……。 開いた窓の網戸越しに、真っ白な雲を浮かべた青空が見える。 「あ、おっきいトンボ……」 「オニヤンマか?」 「ううん、銀色のやつ」 「ああ、そっち」 「東京には、あんなのいないでしょー」 「気にしたこともねーな」 子供っぽい会話に呆れる様子もなく、純は私の話に耳を貸す。
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