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◇ ◇ ◇
「私、大学は白鳳に行くんだからね」
高校に入って間もなく、進路指導のプリントを前に、裕は両親に宣言した。
「お前がかあ??」
裕の父である政(つかさ)は飲んでいた茶を吹き出しそうになり、そして、わははと大笑いした。
「無理無理。お前のおつむじゃ絶対無理だあ」
さらにカラカラと笑いこける。
「そっ……そんなことないもん!」娘はムキになった。
裕の両親が居を構えるところは東京都、地域は奥多摩地方。大変のどかで、風光明媚、自然に恵まれた人間らしい生活ができるところと両親は手放しで気に入っているが、娘にはお腹いっぱい。もっと華やかで人が一杯いて刺激的な市街地や都心部に惹かれるのは当然のこと。
普段から、ここは私が暮らす場所じゃない! と言い続けていた。
今は叔父・慎一郎が暮らす都内は青山の家屋が本籍地であり本来の住まいだったと聞いてからは尚更、若者はいきり立つ。
失われた何年かを取り戻したい! と根拠なく主張するようになっていた。
「うちの高校、偏差値悪くないし! 国公立とか私大の進学率も悪くないんだし! それに先生に聞いたんだよ、私、入学の時の順位は2桁台だったって。それも20位より上だって言ってたよ! 今はそれより上がってるし! 今後もそれキープできれば充分狙えるって! ホントは中学とか高校とか。ううん、幼稚園の頃から行きたかったのに! こんな辺鄙なところから都心まで通えないんだもん! それに!」
裕は机をどんと叩く。
「お父さんだってお母さんだって行ってた大学じゃん! 叔父さんも、そうそう、おじいちゃんもなんでしょ??? 私だって通いたい!」
「動機がそれだけかあ? 血縁者なら誰でもいける学校じゃないぞー」父は呆れ声を上げた。
「知ってるか? 白鳳っていやあ、日本でも有数の私立大だぞ」
「だって、父さんだって出れたじゃん」
「だって、たあ何だ、だって、とは!」
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