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「そうねえ、お父さんは幼稚舎からの持ち上がりだから、あんまりおつむの良し悪しは関係ないわね」
父と娘の間に割り込んで、母・加奈江は「はい、お茶」と言いつつ二人に入れ直した茶托を差し出した。
「母さんー」政は情けなさそうな声を上げる。
「でしょ?」
裕は、それ見たことか、と父を睨む。
「俺はいいんだ」政はぼそり。
「けどなあ、母さんは違うぞ! 女子の首席だったんだからな!」
「女子学生少なかったですからねえ」ずずっと茶をすすりながら母は言う。
「首席と言ってもどれほどのものでも」ほほほと笑う。全然助け船になってなく、夫に向かい風を送りまくっている。
「だがなあ!」ここぞとばかりに父は力説した。
「母さんは中学から編入したからな! 編入組は賢いんだ、簡単に入れないんだぞ!」
「らしいねー」娘は気のなさそうにスルーする。
「つまりだ! お前の普段の成績では白鳳だろうがどこの大学だろうが進学できるわけがない、ちゅーわけだ!」
「わけだ、って何で!」
「見てみろ!」
父はびしっと指差す。そこには、一学期からの定期試験の点数がずらりと並んでいた。
「たしかに平均点は上位にある。けど、その平均点が一定しないのは何故だ」
「そ、それはね、その時々の気分とかテストの難易度が左右するのよ」
「気分屋の言い訳だな。特に英語の点数が悪すぎる!」
これにはぐうの音も出ない。
そう、裕は理数系に強く、歴史にも明るく、読解力も芸術点も、体育も総じて優れていたが、どういうわけか英語の点数が悪かった。
面談でどの先生にも言われ続けた、あなたは英語の成績にむらがあるわね、と。
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