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「……だって苦手なんだもん」裕は口ごもった。
書道家である父の仕事のマネージメントを担っている母・加奈江は、時たま発生する海外とのやりとりをも手紙や電話で普通にこなせるぐらいの語学力の持ち主だ。もちろん、ビジネスレターもお手の物だ。
父の弟である叔父は大学院生の時に海外留学していた。母方の従姉は国際線の客室乗務員。当たり前の話、どちらも英語には困る余地がない。
そして、くやしいかな、日本語以外理解できなさそうな父ですら、発音がめちゃくちゃでカタカナをそのまま語っているように聞こえるのに相手とのコミュニケーションには不自由していない。
つまり、父方母方双方の親族の中で、裕ひとりだけが英語劣等生のレッテルを貼られてしまっているのである。
濡れ衣ではなくその通りなのだから仕方がない。
「言っとくけどな」政は娘を指差す。
「白鳳は、英語には厳しい。弱点を直せないなら、どこだろうと受け入れてくれる学校があるわけがないだろうが。気合いで世の中渡って行けると思うな」
むかつくー!
なんだよう、クソ親父!
裕は奮起した。
苦手な学科は残念なことに苦手なまま残ってしまったが、それでも点数は底上げされて安定した。
高校三年になって志望校を決定するにあたって、再度彼女は訴えた。
「白鳳行くからね」
今度ばかりは父も笑い飛ばすことができない。
けれど、限りなく合否のボーダーラインに近く、当たるも八卦、当たらぬも八卦の成績だった。
「一度だけ、受けさせてやる」政は言う。
「一般入試で合格したら、考えてやろう」
「ここから通え、なんて言わないよね?」
「もちろんだ、二言はない。ただし! 一般入試に受かったらの話だ!」
「お父さん」母が二人の会話に割って入る。
「推薦枠もあるんですから、合格できるならどちらでもいいんじゃありません?」
「だめー」政は断言した。
あー。意地悪い! 父さん、意固地!
裕はムッとした。
「保険をかけてどうこう、って生き方は好きじゃない! 受かる奴はどんな状況でも必ず成果に繋がる。ダメな奴はいくら条件が揃ってても落ちるんだ。裕」
「何」
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