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「お前、絶対、白鳳へ行きたいって言ったな」
「うん、言った」
うん、言った、とリピートするように、彼女の脇に侍っていた猫が、なーうと鳴く。
合いの手入れるな、こいつは! と政は猫の頭をわしゃわしゃ撫でる。猫はごろごろと喉を鳴らした。
「自分の力をぶつけるつもりで、一発勝負で挑んでみろ! 合格できたらお前の本気を認めてやる!」
認めさせるんだから!
父・政は頑固だと人は言う。
その頑固さを受け継いでいると裕も言われる。
世の父親は娘には弱いという伝家の宝刀、つまりお父さんに素直に甘えればよいものの、この父娘の関係に奸計が入り込む余地はないし、裕はできない性格だ。
彼女はがんばった。
父の言葉を真に受けて、一発勝負の試験日に懸けた。
そのつもりだったが、ホントの一回こっきり、一発勝負はしなかった。
一本気の娘の性格を知り尽くしている母の助言を受けて、滑り止め受験校も探した。出願もした。
が、入試日はすべて白鳳大学の後。つまり二次試験ばかり。
「裕は一途だから。誰に似たんだろうねえ」気炎を吐く孫の憤懣を電話口で受けて、母方の祖母は笑った。
「誰にも似てないもん」裕は膨れた。
「大丈夫、おばあちゃんも神様仏様にお祈りしておくから」
正月三が日はいつもなら祖母のところを訪ねた。今年は来なくていいよ、祖母は言う。
「その分勉強して、合格したらいつでもおいで」
祖母の言葉に甘えて、自宅で過ごした。
合格したら会いに行く、は約束の言葉だった。
そのつもりだった。
だが。
入学試験の前日だった、祖母の訃報が飛び込んできたのは。
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