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部屋を出ると長い病院の廊下が続いていた。
夜間でも人が歩けるように、薄暗い緑色の非常灯が点々と灯っている。
奥にナースルームがあって、そこだけが周りよりも一際明るいだけで、病室の連なる廊下は、少し不気味だった・・
「病院」と言うと、ケガをしたり病気になった人が駆け込む救急的な施設ではあるけれど、それと同時に、短期でも長期でも入院する人達が寝泊まりしている。
出産で新しい命が誕生する場でもあれば、その一生を終える場所でもある。
生と死が隣り合わせの病院・・・
そして、この病院は、僕の母がこの世を去った舞台でもあり、翔子ちゃんが寝たきりで入院していた所でもある。僕や彼女が生まれた病院だとも聞かされている。そんな幸も不幸もある事を考えていると、不思議な想いが込み上げてくるのだ。
窓越しに、隣の古い病棟を眺めていた彼女がポツリと言う・・
「この病院・・
戦時中は空襲で焼け出された人を収容していたみたいね・・」
まるで、見て来たような事を言う彼女。
「空襲の時?
源さんが経験したって言う?」
僕が彼女に聞いてみた。
以前、花火大会の時、集団で空襲の時の映像を見た事がある。
あれは、彼女の「お母様」が欅の木に流れる空襲の記憶と僕達のオーラをシンクロさせて、幻影を見せていたというけれど・・
「うん・・
あの時の負傷者を、この病院に集めていたのよ。
手当もままならずに、命を無くした人が大半だったみたいね・・・」
「何で、そんな事が分かるの?」
「だって・・あそこ、うじゃうじゃいるし・・」
うじゃうじゃ・・彼女には病院にさ迷う霊達の姿が見えているらしい。
僕と一緒の時は、なるべく眼鏡や髪止めを外して、素顔で居たいと言う彼女。あのアイテムが無いと、通常の霊力が発揮され、霊が見えっぱなしになる・・
「も・・望月さん・・
あんまり、変な事言わないでよ・・」
後ろを歩いて来ていた先生が苦笑いしている。恐怖のせいか少し顔が引きつっている。
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