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ピ!
僕が霊感ケータイのスイッチを入れて、カメラモードにする。
彼女の見ている隣の病棟をカメラ越しに覗いてみた・・
ファインダー越しに見る暗い病棟・・・画面には真っ黒で何も映っていない。
カメラをちょっと横に振ってみる。
暗い病棟の1階部分の入口がエントランスの照明に照らされて、僅かに明るくなっていた。
その入口付近に、白くて丸い物体が映し出されていた。
何だろう・・
そう思って、目を凝らして見る。
丸い光の中に、黒い頭らしきものが確認できた。
よく見ると、白い部分は、人の背中だ。
その背中から伸びた両腕が、先程の頭を抱えている。
背を丸めて、前屈みになってうずくまっている姿だった・・
何か、物思いにふけっているのか・・
この世の終わりとでも思っているのか・・
悩んでいるのか・・
苦しそうな感じも見て捉えられる。
「あの人は、家も家族も失って、絶望の思念が強いわ・・」
彼女がポツリと言った。
「空襲で、無くしたの?」
僕が聞いてみる。
「うん。
その後に、爆撃を受けて負傷したみたいね・・」
その人の辿ったエピソードを淡々と解説する彼女。
戦争で、全てを失い、そのまま亡くなったなんて・・
その隣に、うつぶせになっている人の形をした白い塊。
少し離れた所で、無数の光が右往左往しているのに気づいた。
泣いて抱き合っている親子のような白い影も浮かんでいた。
彼女が「うじゃうじゃ」見えるというのも納得した。
こんなに、沢山の人が、この病院で息を引き取った事実・・
いや、ここで収容されずに亡くなった人も大勢いるのだろう。
なんだか・・
悲し過ぎる・・・
そう思った時・・
先程のうずくまった白い物体が、チラッとこっちを向いた気がした。
彼女が咄嗟(とっさ)にケータイに手を掛けて、僕が見るのを止めた。
「ヒロシ君!
あんまり、霊に深入りしたらだめだよ!
向こうから憑いて来られると厄介だよ。」
日頃から彼女が良く言っている言葉だ。特定の霊に関心を持って、肩入れしてしまうと、頼られて来るのだ。
その霊を成仏させようものなら、次々と他の霊が憑いてくる・・
「無視」という言葉は言い過ぎかも知れないけれど、冷たい様に見えても、見てみぬふりをするのが得策だという・・
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