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荷造りテロに遭った浩介は、父親が寝静まった出発前夜、スーツケースから詰められたものをこっそり取り出してクローゼットに隠したのだったが、鞄にキャラメルが入っていることを考えると、浩介が寝静まった後、今度は父親がこっそりスーツケースに入れなおしたんだろう。
「一体、何考えてんだ、親父は。」
浩介は窓の淵に肘をつけ、へなへなとしな垂れる。
・・・(思えば今回の旅行だって、分からないことだらけだ。航空券とホテルは親父がカード決済で用意してくれたし、現金も前もって日本で現地通貨に換えてくれてた)
浩介は財布の中のノルウェー紙幣の淵を親指でパラパラとくぐらせる。
・・・(そもそも、俺は全くノルウェーなんかに興味なかったんだ。なのに勝手に手配しやがって、何が若いうちは経験だ、だ。普通は自分で金を貯めさせて行かせるもんじゃねえのか)
「何だか浩介ご機嫌ななめみたいね」
狐狸精が口を尖らせて言った。
「ノルウェーは遠いからな。飛行機で疲れただけじゃないか。」
雪女郎がげっそりした青白い顔で答える。
「っていうか、何で今回はノルウェーなのさあ。東京でやったら、私行ってみたいパンケーキのお店あったのにぃ。」
電車の速度が遅くなってきたところで雪女郎が言う。
「それはだな、もちまわりでだな・・・」
ゴットン、
静かに走っていた列車が少し振動して止まる。
「中央駅に着いた、行くぞ、タヌキ!」
「ああん、もう、話の途中なのにぃ。」
雪女郎と狐狸精が慌てて席を発つ。
通路を走り抜け、開いたドアからプラットホームに降りた浩介を追いかけた。
「人間どもが私達を触れないのと同じように、私達も人間や物体を触れないからな。自分でドアを開けることもできない。かと言って車体をすり抜けることも出来ない。すり抜けることができるのは人間だけだ。だからドアが開いているうちに私たちも電車を降りないとな!」
「ああん、何て不便なのおぉ。」
二人はプラットホームに飛び降り、混雑する人ごみを文字通りすり抜け、見失わないように浩介の後に続いた。
*****
「ここが今日の宿かあ。」
中央駅から地下鉄に乗り継ぎ、少し歩いた先は予約してあったホステルだった。
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