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「雪女でもおばさんでもない!私は雪女ではなく雪女郎だっ!それにお前の方が若く化けてはいるが、実際の歳などさほど変わらぬではないかっ!」
「はあ!?雪女郎?何その言い方。だっさ―――――い☆」
15・6歳ほどの娘は舌をペロッと出し、右の人差指の目の下を引っ張ると、20代後半くらいの疲れた顔をした女に向かってあっかんべーをした。
「何ぃ!?このタヌキが!!」
そう言って雪女郎が狐狸精に掴みかかろうとした時、到着ロビーの自動ドアが開いた。
頭の高い位置に作ったお団子から瞬時に狐の耳が現れて、到着客の群れのざわめきに反応した。
「おばさん!!来たよ!!」
狐狸精はそれまでの罵り合いをストップし、キラキラした瞳で雪女郎の目を見た後、到着客の列を指さした。
「何!それは本当か!!」
雪女郎も狐狸精の二の腕を両手で掴み、狐狸精が指さす同じ方向を見つめた。
中背で細身の黒髪の青年が、他の乗客の陰に隠れてはまた現れた。
スーツケースを左手で押しながら歩く青年は、右手でガイドブックを開け、きょろきょろと空港の中を見回している。
列はいつの間にかばらけ、青年が雪女郎と狐狸精の方向へ向かって来た。
「こっちに来るわよ、おばさん!」
キャッキャッと両手を握り顎にやり、狐狸精がはしゃぐ。
「黒須浩介だな」
雪女郎は腕を組み、冷静に呟いた。
「コースケ☆ コースケ☆」
狐狸精は今度は体を左右にルンルンと揺らしだした。
二人の2メートル程手前まで近づいてきた時、青年はふと足をとめ、肩にかけた鞄から1枚の紙を取り出した。
「ホテルはここだな・・・と」
紙を覗きこむその顔をよく見ると、まだあどけなさが抜けない20歳位の青年で、卵形の小さな顔に、センター分けにした黒い前髪が目にかかって少し鬱陶しそうだった。
眉毛は凛々しく鼻筋もスッと通っているが、女の子のようなくりくりとした瞳、剃り跡もほとんど見えない位の薄い髭と色白の肌が、可愛らしい印象を放っていた。
細い首にはゴツゴツと意外と男らしい喉仏、胸元に黒いアルファベットのロゴが入った白いTシャツの上には濃い紺色のパーカー。
下はいかにも量販店で購入した薄いチノパンに、白いキャンバス地のハイカットのスニーカーを履いている。
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