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その様子をじっと見ていた雪女郎の肩のあたりの空気がボウッと青白く歪み、長い髪が浮き上がると毛先が浩介の方に向いた。
それから何も起こらないと思ったわずか1秒後、2メートル先の浩介の前髪がフッとたゆんだ。
紙に書かれたホテルの情報に見入っていた浩介が違和感を感じ、視線を真っすぐ前に戻したその瞬間、ブワッと吹雪の様な風が面で襲ってきた。
「う、うわぁっっ!?」
右腕で咄嗟に顔をかばったが、突風はすぐ止んだ。
「!?!?」
一瞬のことで、その風が熱いのか冷たいのかも分からなかったが、風を受けた前腕はじんじんと麻痺していた。
「な~んだ、クールな振りしておばさんも興奮してんじゃん☆」
狐狸精が肘で雪女郎をツンツンと小突いた。
ようやく腕の感覚が戻ってくると、浩介は前の方向に持っていたものが風で流されてしまったことに気づき、スーツケースを引っ張りながら慌てて紙の方へ駆けだした。
「ちょっと待ってちょっと待って・・・」
そう言いながら小走りする浩介は、雪女郎と狐狸精の体をそのままスッと抜けて、紙のところでしゃがみ込んだ。
「・・・・・・。」
二人は顔を見合わせた。
「まだ私たちのことは見えていないようだな、タヌキ。」
「そうみたいね、おばさん。」
そう言って二人は浩介のほうは振り返らず無表情で呟いた。
「よいしょ、と」
と浩介が紙に手を伸ばすと、そこに白くて可愛らしい手がスッと伸びてきて、ひょいと紙を拾い上げた。
少しびっくりしてしゃがんだままの浩介が顔を見上げると、そこには人形のように美しい7・8歳位の女の子が立っていた。
肩のところまであるウエーブのかかった金髪に青い目をしたその少女は、にっこりと笑って浩介に紙を渡した。
「あ、ありがとう・・・」
と言って浩介が受け取ると、少女はくるりと向きを変え駆けていった。
到着初日からあんな可愛い子に出会えるなんて、ノルウェーはなんて良いところなんだと、浩介は能天気に顔を緩ませた。
その様子を冷やかな表情で見ていた雪女郎は低い声で言った。
「今回浩介をモノにするのは私だ。」
「あら、何馬鹿なこと言ってんの。浩介を射止めるのは私よ私☆」
口角は上げつつ、険しい目つきをした狐狸精がそれに続いた。
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