通知オフ

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「……ふぅ」 私は手に持っていたスマホを机に置く。 机には久方振りに開いた教科書。黒と赤の線が列を成しているノート。少し傷が付いているシャーペン。インクが切れそうな赤いペン。可愛らしいキャラクターが描かれた消しゴム。机の端に追いやられた消しかす。定規やら付箋やらが頭を出している筆箱。そして、今私が置いたスマホ。 私はそっとスマホの画面を撫でる。テスト週間ということもあって、今はあまり人とは話していない。メッセージは送られてくるのだけど、それに返すのが面倒臭いのだ。放置状態だ。 時たま「早く返信しろ!」と送られてくるのだが、別に急ぎの用じゃないし、こちらはテスト週間なのだ。返せる余裕など、残念ながら持ち合わせていない。 と考えていると、スマホの画面が光った。どうやら、誰かからメッセージが届いたようだ。 私は横目でそれを見る。そこには…… 「えっ!?!?」 なんと、あの人からのメッセージが。心臓が一瞬止まって、息を吹き返したように騒がしく跳ねる。あぁ……なんて心臓に悪いんだ。 私は眉間を押さえる。顔の筋肉が緩むのが分かる…はたから見たら、変人なのだろうと苦笑いする。スマホは「後はお前に任せる」と言うように、また真っ黒な画面に戻る。 (……ダメだ、集中しないと) 私は今の出来事を忘れるように頭を振る。そしてお気に入りのシャーペンを持ち、「よし」と気合いを入れる。ノートと向き合い、 文字を並べていく。 (あー……もう) 私は持っていたシャーペンをノートの上に転がす。カラカラとシャーペンは転がり、ノートの中央の溝で動きを止めた。 私はスマホを睨むように見つめる。画面は真っ黒で、ただただそこにあるだけ。私は割れ物を触るように、そっとスマホの電源ボタンを押した。 『久しぶり~♪元気?』 そんな短い文が、画面に表示された。 たったの9文字、されど9文字。私にとっては、最高のメッセージだ。
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