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『…フ―――――――…。』
真白の煙を吐き出して、セルシュは小高な丘からその小さな町明かりを眺めていた。
町場には先ほど眺めたとおり、橙の輝きが満ちていた。
…――――が。
「…なんか、活気無いですね…」
『まぁ、これが陰影というやつじゃないのか』
行きかうための大路はけして広くは無く、舞い込んでくる砂塵で余計砂地の大路は誇りっぽくなってしまっていて、おもわず目も耳も覆ってしまいたくなるほどで。
その道を行く人々もみな陰鬱な表情でボロ布のようなローブで身を包み、その頭上からして、所々吊るされた墓守灯篭に照らされて文字通り陰影を作っている。
そろそろと主の後ろをついて歩きながら、ヴェドは通りすがった小さな酒場らしき場所が目に入った。
ほかの町で見た酒場と外装は近い。しかし大きく違うのは、酒を飲み交わすはずの場所はこの町の大路と同様、陰鬱な橙と黒しか映し出していない。おまけにそのグラスに映るのは、やはり陰鬱な瞳だけだろう。
『離れるなよ、ルクステルス』
振り向かないまま、後ろの従僕に声をかけて、セルシュは町場をお構いなしに通る。
その姿は頼もしいのか、空気読めないのか……正直よくわからない。が、“ルクステルス”、これはセルシュから旅路の連れの、従僕への「 気をつけろ 」の警戒指令をかねた偽名だった。
「…あんまりズケズケ行かないでくださいよっ…
ルイさま…!!」
歩を早める主に、一応返事を返しながら、ヴェドは必死になって荷物を引きずってでも追いつこうと躍起になる。
「…っ!」
躍起になりすぎて、砂地の大路のど真ん中に突っ伏してしまった。
さすがにドテ!と大きく音を立てたものだから、前を行った主も足を止めて振り向いた。
『…ルクステル―…、』
「あ…すみませ…
…ッ!」
すかさず、陰りからローブ姿が飛び出してきて、ヴェドの上に覆いかぶさってきた。
「うわぁ!!!」
ヴェドの発声に驚いてか、ローブ姿は横切る形でまた小路へ入っていった。
いうまでもないが、奴は物取りだ。
「まてっっ!
物取りか…っ!!」
『ヴェド…っ無事か…?!』
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