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流浪の止まり木
『まだ怒っているのか?』
「いいえ!いちいち怒っていたらきりがありませんから!!!」
手荒い手つきで主の衣類を出しながら、ヴェドは先ほどの物取りらしき輩に本当に何も取られていないかどうか確認をしていたのだ。
ようやくありつけた今日の宿は、やはり橙と黒の世界一室。
追いかけられて飛び出してきたVIP待遇室とは反転して、ひんやりした木板の空間と隙間風が吹き抜ける、とても安眠できそうとはいえない宿だった。それでもまだ良い部屋をとったほうで、そこは従者としての意地も含まれていた。
(「まったく…!ちょっとでも期待した僕が馬鹿だった…!」)
ムスッとしてセルシュの入浴セットを用意して、簡易シャワールームにセルシュを送り出す。
「はいセルシュ様!早く入ってきてくださいっ!!
僕は先に旅支度だけ済ませておきますから!」
『そう当たるな。悪かったと思ってる』
「わかりましたからっ!」
『ん…?なぁヴェド』
「なんですっっ?!」
『…ないぞ』
「へ?」
『…俺の黒豹柄の上着…』
ほら、この短パンに合わせた奴、と広げてみせるセルシュに対し、一間置いて、ヴェド再起動し始める。
「ほ、本当だ…ない…、
何で…?!」
バサバサと主の衣服を投げ捨て、なくなったたった一枚を探す。
やはり見当たらない。
混乱していると、はっと此処に来る途中のあの怪しいローブ姿が頭をよぎった。
「あいつ…いつの間に…!」
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