0人が本棚に入れています
本棚に追加
辺境黄土の大地と時折吹き荒ぶ風の傍ら、次の町を目指し進む二つの影があった。
「は、…はぁ…!」
『どうした、もうへばったのかヴェド…』
悪戯っぽく目配せる主に、その声が耳に入ってか、余計に無い力で力む。息せき切って頬が赤らむ黒髪の少年の足は、がくがくと揺れていた。
「まさか…!僕は王族付の従者ですよ…?!」
『…フ、
そうでなければ困るぞ。
なんたってお前は私の可愛い従僕…
その程度の荷物をもてなくてどうする?』
「そ、そんなこといって…!
一回もこれもったこと無いのに…
後先考えないで目に付いた衣装ばかり増やさないでくださいよね!!
セルシュ・K・ルード・ヴェンペライさま!!!」
ひとしきりフルネームで呼ばれた主・セルシュは目に見えてあきれたそぶりで、
『ヴェド…
王たるもの何時!如何なる時!!美しい女性に会うかわからないだろう?
もう少し誇りに持ってほしいものだ…』
これぞ正論といわんばかりに、セルシュは何も無い荒野で謳う。
それに負けじと、われながらよくこんなのに付き合っているなと思い始めているヴェド。
…昼間の一件のせいで、すっかり日が落ちてしまっていた。
やっとありつけた格安宿だったのに―…。
それもこれも、女ったらしのこの主のせいで、旅のほとんどはこんな具合だ。
「…たく、女と服以外に考えること無いんですか…」
『何か言ったか?ヴェド』
「いいえ!!別に!!」
ぶちぶち言うヴェドの前を颯爽とヒールの高いブーツで進んでいくセルシュ。
その姿は一応、というかさながら王の風格。
懐から東洋紋の入った煙管を取り出し、一気にふかす。
また後ろから従者の小言が聞こえはするが、悪びれるそぶりも全く無い。
そんなさなか、セルシュは光の集団を見つけた。
暗闇の中、それは温かみのありそうな橙で弱弱しくも力強く瞬いていた。
最初のコメントを投稿しよう!