第1章

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眼鏡をかけた男が嫌いだ。いや、嫌いというか苦手というか。兎に角、勘弁して下さいと尻尾を巻く体だから、つきあっているなんて聞かされてしまうと、思わず尊敬の眼差しで見てしまう。おまけに職業が女子校教師だというのだから、平伏するしかない。元銀行員で、途中採用の英語教師。正真正銘お嬢様育ちの彼女とは、幼少の頃からの長いつきあいだけど、男の趣味は相容れない。今、目前にいるのは、いけ好かない眼鏡の男。今時、詰襟の制服も珍しい。駅で待ち伏せていたのは彼ではなく、彼の友だちだ。毎朝、電車で見かける男子学生に一目惚れして、一大決心だった。ところが行きも帰りも彼は姿を見せなかった。結局、いいようにあしらわれて、階段を下りていく眼鏡の学生を見送ってしまう。続けて同じ制服の垂れ目気味の男子学生が、遠慮がちに通り過ぎて行った。如何にも可哀想にっていう顔つきね。お嬢様らしくない口振りで、隣にいた彼女が呟く。思わず、言い返していた。あんた陰険眼鏡好きなんでしょ。先刻の男、先生にそっくりだよ。あっちでもいいんじゃないの。彼女が口元に菩薩のような微笑みを浮かべる。先生はね、あんな子どもじゃないの。担任教師のことである。だが、教え子に手を出す時点で終わっている。別れてしまえばいいのに。あなたは気にせず幸せになればいいじゃない。微笑む彼女は、いつの日からか一人違う世界を見ている。月の満ち欠けが存在するように永遠なんて、はなから信じてはいない。ネバーラントの子どもたちって、最後はどうなったんだっけ。いいけど。決して口にはしない彼女が好きだという気持ちに、変わりはないのだ。
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