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愛染坂
走って上るには少し急な坂だった
でも歩いて上るのはつまらない坂だった
七坂巡り
祖母によく連れられてきた
坂を上り下り以外に特にすることはなかった
頂上へ
上ってみれば何だこんなものかと
たいして距離も無ければ高くも無い
始点へ
くだって行けばただ単に
また訳もなく上ってみたくなる
真ん中で
立ち止まってみて思うのは
規則的に揺れるシーソーのような
単純な興味のうつろい
何も無い
特別面白い事など何も無い
なーんもない
はずなのに
なんでか飽きは来なかった
汗吹いて息切らし
何度も頂上を目指す
繰り返すピースサイン
大笑いする祖母
底無しの幸福感
今にして思う
何であれがあそこまで楽しかったのかと
駆け上り駆け下りる
何があんなに楽しかったのかと
頂上の見えない坂を上る事を強要されはじめた
俺にはもう理解できない
幼い頃にしか感じられないのだろう
根拠も何も無い
不思議な充足感
もう取りには戻れない
愛染坂での置き忘れ
愛染坂への追憶
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