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「沙希(さき)」
聞こえるはずのない声に、沙希は思わず肩をはねさせた。
「話がある」
振り返るとそこには、誰よりも見慣れた幼馴染が立っている。
久那(ひさな)がここに来ることは視えていた。
だが、いくら事前に視えていても、驚きが消えることはない。
『来るはずがない、そんなことにはならない』という思いは、いつも心のどこかにこびりついている。
そのわずかな思いが報われることなどないということは、嫌になるほど知っているのに。
「どうしてこんな、俺を遠ざけるような嘘をついた?」
その一言で、久那が全てを知ったということは、理解できた。
久那の未来視は、超能力という点から見れば偽物だ。
ありとあらゆる情報を取り込み、複合させ、より現実に近い未来を予測する。
能力ではなく、情報処理から得られる未来視。
久那は過去から未来を見る。
だから突然転がり込む運命を、視ることはできない。
運命を視透かすことができるのは、沙希の未来視だけだ。
だから、沙希は知っている。
どれだけ足掻いても、未来は変わらない。
口では『諦めない』と言っていても、心はすでに折れていた。
ただの惰性で、未来を変え続けようとしただけで。
「答えろ、沙希」
だけど、こんな未来は、承服できない。
変わらなくてもいい。
でもせめて、髪一筋分でいい。
視た未来を、歪めたい。
だがら、こんな嘘をついた。
見破られると、半ば覚悟しながらも。
心が張り裂けそうになるくらい、苦しくなると分かっていても。
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