Lycoris -水底(みなぞこ)に沈めた華-

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 沙希が視た未来は、変わらない。  今までずっと、そうだった。 「な……ん、で……」  国家人口管理局『リコリス』。  掃除人とは、国家機関の名の下に集められた、対人間処分のスペシャリスト。  つまり、国家お抱えの殺し屋。  先の少子高齢化時代に取られた政策の反動で、今やこの国は養いきれる以上の国民を抱えている。  その国民の中からより優良な人間を優先して生かし、より不良な人間を消し去るために作られたのが、国家人口管理局、通称『リコリス』だ。  かつて世界一治安の良い国だと言われたこの国は、今や世界で一番生きていくのが難しい国となった。  ここで生きていくには、明確な存在理由が必要とされる。  社会に大義名分の立つ、誰もが認める存在理由が。  認めてもらえなければ、『片づけモノ』として、片付けられてしまう。  いらなくなった人形がゴミ箱に捨てられ、やがてゴミ収集車に回収されていくかのように、あっさりと。 「明日の夕方、私は殺される。  ビルから突き落とされた上で、頭に銃弾を受けて死ぬの」 「……そのイメージが、視えるのか?」  自分の死について語っているはずなのに、沙希の声は奇妙なほどに凪いでいた。  久那の言葉に、沙希は小さく頭を横に振る。 「私の未来視は、私の視点でしか未来を視ることができない。  私に関わる未来しか私には視えない。  ……だから私は、私が死ぬと分かったの。  今の私には、明日の夕方以降の未来が視えない。  私に視えるのは、遠ざかっていくビルの屋上と、そこから放たれる弾丸だけ。  その後は、ブラックアウトしたテレビを前にしているみたいに、何も視えない」  未来が視えないということは、未来の自分がそこにいないということ。  つまり、未来が視えなくなった時点で、自分は死ぬのだろうと、沙希は考えたということだ。
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