5人が本棚に入れています
本棚に追加
……何をしていたんだっけ?
……あぁ、確か、沙希が掃除人に殺される未来を視て。
その未来を否定するために、一晩中パソコン叩いて、沙希から話を聞いて、情報を分析して。
沙希が殺される現場になるだろうビルを割り出して。
近付くなって言い含めて、それから人目のある場所に行こうと思って、結局いつも通り学校にいるのが安全だと思って……
重い瞼を開くと、茜色に染まった空が見えた。
遮る物のない空を、ほんのり紅色に染まった雲が急ぎ足で流れていく。
「……っ!!」
「お目覚めか。長谷久那」
軋む体を無理矢理起こすと、気だるげな声が聞こえた。
声の方を振り返ると、遠宮龍樹(たつき)が声と同じくらい気だるげな表情で久那のことを見おろしている。
……そうだ。同じ学校に通う 掃除人 2人に、思わぬ形で俺だけ奇襲を受けたんだった。
遠宮龍樹が纏う衣服は、制服から変わっていた。
礼服と呼ぶには重苦しく、喪服と呼ぶには豪奢な黒服。
『リコリス』の掃除人が纏う仕事服だ。
「……俺を人質にとっても、沙希はここへは来ませんよ」
「そういう判断ができるのは、非日常に身を置いている人間だけよ」
遠宮龍樹の相方である鈴見綾(あや)は、ゴシックワンピース調の仕事服と、ツインテールの先を強い風に揺らしながら久那のことを見ていた。
栗色の瞳は冷たく久那を睥睨しているのに、そこには確かに感情が宿っていた。
最初のコメントを投稿しよう!