Lycoris -水底(みなぞこ)に沈めた華-

8/16
前へ
/16ページ
次へ
「違う形で関わっていたら、是非とも『リコリス』にその腕が欲しいと言われた」  ゆっくりと、数を増やしている。  ドクンッと、久那の胸が騒いだ。  こんなこと、今まで一度もないのに。 「まあ、たらればの話をしても意味などないが」  遠宮龍樹が、静かに日本刀を抜いて久那の首筋に添える。  それを見た鈴見綾が、エレベーターの扉の前から身を引いた。  静かな屋上庭園に、エレベーターの昇降音だけが響いているような気がした。 「そんなものを話しても、過去や未来は変わらない」  夕日が一際紅く、禍々しく、空を染める。  その中にポーン、と、間の抜けた電子音が響いた。 「……未来視っていうのは、本当に便利だな。  場所も行動も指示しなくて済む」  少しだけ大きくなった遠宮龍樹の言葉は、久那に聴かせるためのものだったのだろうか。 「視た未来のままに、行動すればいいのだから」  それとも、エレベーターの向こうから現れた沙希に向けられたものだったのだろうか。 「……沙希」  沙希は鈴見綾の目の前を通って、屋上庭園に足を踏み入れた。  役目を終えたエレベーターは扉を閉めると階下へ帰っていく。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加