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「沙希、どうして……。
『来るな』って言った時に『分かった』って言ったじゃないか……っ!!」
「……遠宮先輩、刀を引いてください。
殺したいのは、私なんでしょう?」
沙希は久那の言葉に答えなかった。
体はどこにも力みのない自然体のまま、真っ直ぐに遠宮龍樹に向かって歩を進めていく。
「……お前は、足掻かないんだな。
死ぬと分かっているのに、ここまで静かな人間はなかなかいない。
末期の病人だってもっと足掻くぞ?」
「私が視た未来は、変わりません」
「……これは、長谷久那もさぞ救いがいがないだろう」
遠宮龍樹は呆れたように呟くと日本刀を鞘に納め、鈴見綾の方へ視線をやった。
「救われようとしている本人が、すでに生きることを諦めているのだから」
沙希は、遠宮龍樹と五歩の間を残して足を止めた。
沙希の後ろを取るように、鈴見綾が立つ。
「死ぬことが死ぬほど嫌で掃除人になった俺達は、きっと一生、お前の考え方が理解できない」
「……死ぬ前に一つだけ、訊いてもいいですか?
……なぜ、殺すんですか?」
「お前を殺すことに対してならば、それが上からきた指令だったからだ。
掃除人が片付け者を片付けることに対してならば、今この国で一番軽いものが国民の命だからだ。
俺が人を殺すことに対してならば、それでしか俺の存在理由が証明できなかったからだ」
沙希の後ろで、鈴見綾が拳銃を抜いた。
祈るように拳銃を両手でホールドし、銃口を沙希の後頭部に押し付ける。
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