第1章

8/17
前へ
/19ページ
次へ
「え?」  あまりに不意打ちだったため、反射的に、脳を通さず直接マコトの口から疑問符が飛びでた。先ほどのハルキと同じように、言葉とぴったりの表情をしているに違いない。 「だから、こそこそと面倒くさいことしなくても、調べたのを見せてー写させてーって頼めばいいじゃん?もう隣の小学校に転校してるんだし、先生にばれることはないだろ」  なるほど。 「いやいやいや、ちょっと待ってよ」  理解はできたが納得はできない。  常識で考えて、見せてと言って見せてもらえるものではないだろう。ただの宿題ならともかく、自由研究だぞ。ひたすら頭と精神を酷使する計算ドリルや漢字ノートとは大きく違うのだ。  マコトはぐるぐると一人思考を巡らせた。  自分で題材を決め、自分のペースで楽しく自由に研究する自由研究。決められた宿題の中で唯一自分のオリジナルのものである。自分の個性が大きく反映される自由研究は、夏休みの小学生のプライドなのだ。いかに面白く優れたものを提出するか競い合う、勝負の場だ。  マコトは残念ながらいい結果を残せていないが、ハルキは二年生の頃に「体をグラデーションに日焼けさせる実験」を見事成功させ、一気にクラスの人気者に躍り出た。そしてハルキが言うには、キモトも立派な「かがみ様」の研究を作って一目置かれている。  夏休み終了から数か月間は、この自由研究によって、クラスの面白いやつすごいやつヒエラルキーが形成されるのだ。  見せてもらえるはずがないじゃないか。  マコトに、自由研究を丸写しなどという発想は存在していなかった。   特にそのキモトという人は熱心に取り組んでいるらしいじゃないか。ハルキ自身が言っていたことである。  その熱心さを知っていながら本当に写させてもらえると思っているのか。    いや、もしかしたらキモトはそこら辺がわりとおおらかな人なのかもしれない。クラスが違った自分が知らないだけで、友達の間では常識なのかも。  それならばここまで話が混線してしまったこともわかる。自分とハルキはそもそも前提が違ったのだ。  しかしやはり納得はできなかった。そんなズルで自由研究をつぶしてしまうことがマコトには許せない。罪悪感もある。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加