第1章

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 やはりだ。  ハルキはキモトの性格を考慮した上で、自分の足で歩き、調べ、まとめたものをあっさり見せてくれるだろうという考え方をしていたわけではない。  この素直な男はそういう過程を吹っ飛ばして、いきなり見せてもらえばいいじゃんという結論にたどり着くのだ。 「キモトはきっとがんばって調べてるんだからさ、写させてなんて言っても怒らせちゃうだけだよ」  だから見せてもらうのはナシと続けようとしたマコトをハルキが遮る。 「そうか!だから後をつけて、どうやって調べているかを盗み見るんだな!」  すべてに納得がいったというようなすっきりした顔で、ハルキはうれしそうに言った。 「うん。うん……?あれ?」  そうだったかな。自分が言いたいのはそういうことではなかったような。  確かに結論としては情報源を探るということなのだが、なんだかその理由がすごく不健全になってしまった気がする。  まあどうだっていいか。  マコトにとってこれは逃したくないチャンスである。うまくいけば、この「かがみ様」探しもどきを、立派で充実した自由研究に昇華できるかもしれないのだ。  逆に言えば、もしこれを逃した場合、夏休みが終わるまで延々とこのアテのない探索を続けなければならなくなるかもしれない。  マコトのなかで天秤が揺らいでいた。怒られないよう今から全力で家に帰るか、キモトの後を追ってみるか。  もし今日時間内に家に帰ることができたとしても、この先アテのない「かがみ様」探しを続けていく上で必ず時間をオーバーしてしまう日は来るに違いない。  それならばここでその「かがみ様」探しに一段落つけて、この後の探索に時間的余裕を持つ方が結果的に叱られるリスクは減るのではないか。  しかしここでキモトの後を追ったとして、それでなんらかの成果を挙げられるとも限らない。  もしかしたら家に帰る途中なのかもしれないし、塾へ向かっているのかもしれない。今「かがみ様」の研究をしている最中かどうかなんてわからない。  いやそもそも、キモトが自由研究の課題に「かがみ様」を選んでいるかどうかもわからないじゃないか。たまたまハルキと一緒のクラスだった二年間だけ「かがみ様」の研究をしていただけかもしれない。そっちの可能性の方がずっと高いんじゃないのか。
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