第1章

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 マコトとハルキの周りの空気がピンと張りつめている。二人とも、まるで時間が止まってしまったかのように動かない。  その重く強張った空気が、尚更二人の緊張を高める。  この恐怖と緊張に耐えられない。マコトはこの空気をぶち壊して、小さな子供の様に大声で叫びながら走って逃げたい衝動に駆られた。  中途半端に動いてしまうと、自分たちが恐れている何かに悟られてしまうのではないか。そんな得体の知れない恐怖に包まれていた。  口にするべきじゃなかった。今日は自分の心の底にしまっておいて、明日みんなと遊ぶときに笑いながらネタの一つとして話すべきだった。今はただ、行動力のあるハルキの後ろを黙ってついていくだけにしておけばよかったのだ。  失敗だった。マコトの頭に後悔が広がる。  無音の中固まる二人の耳に、不意にガサリと何かがこすれるような音が聞こえた。  マコトの中の緊張の糸が一気に張りつめる。ただでさえ細く、簡単に切れてしまいそうだった緊張の糸が、今にもぷつんと勢いよく千切れてしまいそうだ。そうなったらきっと自制が利かなくなり、本能のまま叫びながら走って逃げかえってしまうことだろう。  再び音が聞こえる。規則的に響く音は少しずつ二人に近づいてくる。  そうかこれは足音だ。  誰かが近づいてくる。体から血の気がなくなり、全身が冷たく硬いロボットのようになっているのがわかる。しかしマコトの中では心臓が忙しく脈打っていた。止まった体の中で動き回る心臓がひどく気持ち悪い。爆発してしまいそうだ。  マコトの視線は真っ直ぐ階段の先に向けられたまま動けなくなってしまった。足音から察するに、もうすぐ何者かが顔を出す。そこから視線を逸らすことができない。  視界の端にはハルキの姿が映っていた。やはりピクリとも動かず集中しているようだ。階段の先を凝視するマコトにはハッキリとはわからないが、きっとハルキも同じように階段の先を見つめているに違いない。  いよいよ足音がすぐそこまで近づいてきた。  早く姿を見せてくれという感情と、このままどこかに消えてくれという感情が混ざり合い、頭がぐらぐらしてくる。  音はすぐそこだ。恐らく次の一歩で視界に入る。  ゆっくりだが自分たちには止めようのない足音。それが今そこから顔を出す。
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