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── 「……?」  夜中の11時。規則正しくも家内の人間が皆、寝静まったはずの時間帯にドアを叩くノック音に怪訝な表情をしながら、ケントはそちらを向いた。  妹は普段ノックをするようなやつではない。では、誰か。 「……どうぞ?」  返事をすると、静かにドアが開き、外にいた少女は小声と共に部屋に足を踏み入れた。  ケントの家にホームステイ中のネメシア・タスカローラだ。  寝巻きなのか、着心地の良さそうな半袖のTシャツに短パンという服装だ。  思わず胸元に行ってしまった目を慌てて逸らす。 「……失礼します」 「……タスカローラ……さん?」  どう呼ぶべきか困惑し、無難にさん付けで呼ぶと、 「……ネメシアと呼んでくださいますか?」 「……ああ、分かった。ネメシア……何の用?」  こんな夜中に男子の部屋に来るのはあまり感心しないが、何か用があるのかと首を傾げる。 「はい。あー……と、ケントさんに聞きたいことがありまして」 「聞きたいこと?」 「はい。リンに聞いたんですが、ケントさんは日本の神話に詳しいんですよね?」  「リン」というのはケントの妹の名前だ。  ケントは自分の本棚を一瞥しつつ答える。 「日本神話に詳しいっていうか、……確かに神話は好きだよ」  視線を向けた本棚の先には、世界の神話について書かれた書物が30冊ほど置いてある。  その内、10冊ほどが日本の神話についてだ。 「でも、何故そんなことを?」 「私は大学で世界の神話について研究しているんです。今回は、日本の神話を調べるために来日しました」 「……へぇ。そういえば、大学生だっけか。何年生なの?」  そう聞くと、ネメシアは若干首を傾げた。 「……何年生? ……学年ですか?」 「うん」 「……とりあえず、Master of Arts……は持っています」  少し悩んだあと、一部流暢な英語でネメシアは答える。どうやら、日本語が出てこなかったらしい。 「マスターオブアーツ……?」  沈黙したケントは、傍の相棒で検索エンジンを開き、検索をかけた。一応、英語で。  すると、日本語訳が現れる。 「……Master of Arts……修士号……!?」  その字を見て、カッとケントの目が見開かれる。  修士号とは、大学院生が二年の修士課程を終えて取る学位である。  現在大学三年のケントは逆立ちしたってあと四年は大学に通わねば取れない。
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