1.はじまり

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「もう!今行く!」 華子はスマホを耳にあてたまま、 かばんを肩にかける。 片手で私と恵麻にごめん、 のジェスチャーをしながら出口へ走り出す。 華子の通ったあとはいつも、 いいにおいがする。 きっとあの背中まであるつやつやの長い黒髪を洗っている シャンプーとコンディショナーの香りだろう。 恵麻は残りのクロワッサンをほおばりながらもごもご言っている。 私はテーブルに開いて置いたままの 赤い表紙の「パース!」と書かれた本に目を落とした。 絵を描くなら知っておかなければと、 最近、パースの勉強をしている。 変な夢を見たのはこの難しい本のせいかもしれない。
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