四 遺体発見② 現場検証

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四 遺体発見② 現場検証

 八日、日曜、午後。  遺体発見までの説明を終えて、安西肇がいった。 「山田勇作が昼飯に顔を見せなかったのでステージの周りを見に来たら、この有様でした。  規制線は、秋山さんの指示で撮影スタッフが張りました・・・」 「現場保護の賢明な判断です。ありがとうございます」  佐伯は安西と秋山に礼を述べてお辞儀した。  地元駐在所の只野巡査が駆けつけた。佐伯は警察手帳を見せて役職と階級を告げ、正式に規制線を張って現場保存のために野次馬を規制線内に入れないよう指示し、佐介と真理を呼んだ。 「佐介さん、私は秋山さんと安西さんにいろいろ訊かねばなりません。  まだ記事にしない条件で撮影をお願いしたいのです。  現場を撮影してくれますか?」 「ええ、撮影しますよ」  佐介は、佐伯が事件関係者のカメラマン秋山秀一を納得させるため、あえて報道規制を説明していると感じた。  それでは頼みましたよといって佐伯は佐介と真理に現場撮影について説明した後、安西と秋山を連れてステージ裏の山田勇作死亡現場へ向った。 「行ってくるよ。真理はここにいた方がいい」  死亡現場に遺体がある。佐介は真理を気づかった。  「大丈夫だ。私も行く・・・」  佐介と真理はステージ裏の河原へ歩いた。  ステージ裏の山田勇作死亡現場で、佐伯は安西と秋山から事情聴取して現場を確認している。佐介は山田勇作が倒れている河原の現場をくまなく撮影し、撮影用の特設野外ステージを土台から本体、そして全体を撮影した。 「ステージに登って、撮影しますよ!」  佐介は佐伯に声をかけた。 「雨で滑るから、気をつけてください!」 「わかりました。注意します!」  建築用の枠組み足場で作られたステージは河原から六メートルほどの高さがある。ステージに登るために鉄骨の階段が設置されている。佐介と真理は手摺りを握りながら雨に濡れた鉄骨の階段を慎重に登った。  特設野外ステージの床は濡れて滑りやすかった。佐介と真理は慎重にステージを移動してステージの各部をくまなく撮影した。 「サスケ。あのロープ、撮ったか?」  真理はステージの支柱横に垂れ下がったロープを示した。  ステージは三方向に落下防止フェンスがあるが、対岸に柱状節理の岸壁がある奥山川の側にフェンスは無い。床を拡張したように、床と平行に二メートルほどの幅で落下防止ネットが張られている。真理が示したのは、この落下防止ネットとステージの床との隙間の間に、水平に張られたロープだ。このロープにも落下防止ネットか括られて、ロープの両端はステージ両端にある支柱の滑車に通され、ステージの下に垂れさがっている。佐介が滑車の高さをメジャーで測ると、ステージから一.五メートルほどだった。 「ああ、全部撮ったよ。ここから河原へ落ちたかもしれないから、上からのアングルで、下の河原を撮ろう」  佐介は、遺体がある増水した河原といわず。下の河原と話した。真理の前で遺体や死体の言葉はできるだけ口にしたくなかった。  真理と佐介は、落下防止ネットが張られた奥山川側へステージを移動した。対岸には柱状節理の岩壁がある、ステージは河原から六メートルほどの高さだ。  佐介はステージから落下防止ネット越しに下を見て、増水した河原の大石のそばで水に浸かったままの山田勇作の遺体と、山田勇作が頭を打ったと思われる大岩を撮影した。  山田勇作の遺体があるのは、ステージほぼ中央真下で、ステージから三メートルほど離れた大石と大石の間の水の中だ。山田勇作がステージから飛び降りたなら、ステージと平行に張られた幅二メートルの落下防止ネットを跳び越えた事になる。どうやっ跳び越えたのだろう・・・。  特設野外ステージから見下ろした現場の撮影を終えると、佐介と真理は河原へ戻った。  現場撮影が始って一時間ほどすぎた頃、救急車両と警察車両が到着した。地元警察署の関係者が仮設橋を渡り、特設野外ステージ下の河原に現れた。一行は佐伯から、現場検証と被害者の私物押収の指示を受けて、佐伯に敬礼した。  刑事と鑑識の二人が、現場にいる真理と佐介に近づいた。 「佐伯特務官から、お二人の意見を参考にするよう指示されてます。  私は刑事の山本です。こっちは鑑識官の田上です」  刑事が自己紹介すると、田上鑑識官が、早速ですがといって佐介の撮影した画像を確認して、メモリーカードのデータをコピーした。ステージからの落下も視野に入れて現場の画像を記録した佐介に感心している。 「石の上に滑った靴跡はあるが、登った跡がない。雨で流れたなら、あの滑った靴跡も流れて消えるはずなのに残ってる。ふしぎだよな・・・」  真理は疑問をつぶやきながら、現場画像を確認する佐介と鑑識の田上に傘を差しかけた。  なるほどといって山本刑事と田上鑑識官は、佐伯が佐介と真理を『頼りになる二人です』と話した事に納得した。  二時間後。  救急車両が遺体を運んで走り去った。現場の河原で佐伯は指示した。 「秋山さん。今後、誰もステージから落ちないように、落下防止ネットの幅を三メートル以上に拡げてください。細かな事は山本刑事が説明します。その上で、撮影をつづけてください」  佐伯の言葉で、現場運営プロデューサー安西が訊いた。 「山田勇作は、この河原から大石の上を渡り歩いたのではないと?」  佐伯は、山田勇作が死亡した現場を指さした。 「ご覧の通り、現場までは砂利で足跡は残りません。現場は増水で石の上しか歩けません。水位は午前と変らないようです。  山田勇作さんがどこからあそこへ行ったか、解剖結果で明らかになるでしょう」  山田勇作が死亡していた大石は、特設野外ステージから三メートルほど離れている。ステージまでの高さは六メートルほどだ。大石の上で滑って頭部を強打した場合と、六メートルの高さから落下して頭部を強打した場合、頭部だけでなく身体損傷に違いがでる。山田勇作の頭部損傷は転んだ程度のものではなかった。現場を見慣れた佐伯にその事がわかったが、安西や秋山にそれがわかるはずはなかった。  佐伯と安西の会話で、真理は山田勇作がステージから落下したのを確信した。他殺や自殺を除けば、ステージに張られた幅二メートルの落下防止ネットを跳び越えて落下する者はいない・・・。なあ、サスケ・・・。真理は佐介の袖を引いた。 「ステージからの落下だ・・・」  佐介は真理の耳元でそうつぶやいた。
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