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背中にしっとりと汗をかくことが多くなってきた頃だったと思う。
夏の暑さがじりじりと近づいてきたことを感じていた僕こと、隅野若人は驚きを隠せなかった。
きっかけは本当に気まぐれだった。僕の母が大学時代の友人から頂いたある作品があった。
それを僕がエブリスタに「吸い葛の香る頃に」 として投稿したのは何年か前の初夏のことだったと記憶している。
当時は大した反応もなく、僕も長い間気にも留めることはなかった。
しかし、何とはなしに最近エブリスタを見直したところ、数点のレビューが立て続けに付けられていた。
もともと作品については僕が書いたものでもなく、思い入れが特別にあった訳でもない。
それでも、それらのレビューを読むとどうしても、ある「事件」 に対して興味が掻き立てられた。
まずは、母にその“友人”について聞いてみた。母はひどく懐かしい様子でぽつりぽつりと話してくれた。
「葉雪ちゃんね。とっても懐かしいわ。自分のことを“私”じゃなくて“あたし”って呼ぶのが何だか可愛かったわねえ。
もともと勝気なコだったけど、自分のお父さんの背中を追いかけて警察の道を歩んだのには、母さんちょっと驚いたわ」
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