はじめに

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 僕の母は大学時分、文学部に所属していた。 僕もこうして似非物書きのようなことをしていることを考えると、多かれ少なかれ自分の親の影響というのはあるのだろう。 葉雪こと増葉雪女史の父親は、現役当時“鬼増”と呼ばれた泣く子も黙る刑事だったらしい。 「葉雪ちゃん、お父さんに鍛えられた先輩刑事さん達からは“お嬢”なんて呼ばれてて可笑しかったわ。でも葉雪ちゃん優秀だったみたい。 時には大きな事件を調べることもあったらしいのよ。 人事交流で奈良県警に出向している時にも、大きな事件を担当したみたいよ」  そう、何を隠そうその担当した事件を葉雪女史が書き記したものが本作「吸い葛の香る頃に」 の原作である。 原作、と言うのも、もともと本作には別の題名が付けられていた。  しかし、僕がその作品を読んだときに、どうもしっくりとこなかった。 作品の内容と照らし合わせた時に、どうしてもぼんやりとした題名だと思ったのだ。 だから、このサイトに作品を投稿した時に、まことに勝手ながら題名を「吸い葛の香る頃に」 へと変更させてもらった。 そもそも、その別の題名は葉雪女史が付けたものではなかったらしい。 母は近所の中学生の色恋模様を眺めている時のような表情で話を続けた。
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