はじめに

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「当時の葉雪ちゃんには凄い助っ人がいたのよ。葉雪ちゃんは“先生”って呼んでいたかしら。事件があると協力してくれていた大学の教授だったみたい。 そりゃもう美男子だったみたいだったけど、その分、変わった人だったみたい。でも、そんな人なら母さんも見てみたかったわぁ」  息子としては、いい歳した母親が遠くを見るような目でそんな話をするのは勘弁願いたいものだ。 当人はそんな僕の生暖かい目線には一向に気づいていないようだが……。 「葉雪ちゃんは事件を一つの物語として書き上げた後に、一緒に捜査したその先生に題名と自分のペンネームを付けてもらうつもりで会いに行ったそうなの。 その時代にしてみたらセンセーショナルな事件だったらしいのよ。 だから、部数的にも目にする人が極少ないことは分かってた葉雪ちゃんも、実名で発表するのには抵抗があったみたい。やっぱり女の子ね」  僕には「やっぱり」 の意味が分からなかったが、母は一人うんうんと頷いている。 母の話によると、葉雪女子はその先生に付けてもらった題名はともかく、ペンネームに対しては不満があったようだ。 母から聞いた葉雪女子の言葉をそのまま引用するなら「テキトー」 だそうだ。適当、ではないところがミソなのだとか。
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