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それから、その杖で地面を叩いた。
すると今まで床だと思っていた白い部分が急にゼリーみたいに透けて柔らかくなって波が起こったように動き始めた。
僕はビックリしながらもそれを茫然と眺めていると、そのゼリーの動きがだんだんゆっくりになって何かが映し出された。
若い男が白いベッドの上に寝ている。
「もしかして僕?」
ベッドの上に寝ているのは、どうやら僕のようだ。
でも何で?
「そうじゃ、お前さんは白浜翼17歳。車に撥ねられて意識不明の重体じゃ。」
僕の身体はあちこち包帯でグルグル巻きにされている。
顔にも透明のマスクがつけてあり、いかにも重体の患者というのが分かる。
「僕はこのまま死んでしまうのでしょうか。」
今、僕は自分がどんな顔をしているのか分からないけれど、泣きたいくらい焦っていた。
17歳で、人生まだまだの僕がこのままここで死んでしまうなんてあんまりである。
と、その時ふと病室のドアがコンコンとノックされ、ガチャリと誰かが入ってきた。
女だった。
「翼、お花持ってきたよ。」
女は、花瓶に花を生けるとベッドの横の椅子へと腰かけた。
年齢は僕と同じくらいに見える。
この女は誰だっただろうか。
なぜか僕には記憶が全くない。
事故にあった記憶も、事故に遭う前、自分が何をしていたのかも、全くだ。
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